310PRESS Vol. 18■「消費税増税凍結法案」を国会提出
11月5日、維新の党は「消費税増税凍結法案」を他の野党と共同で国会に提出しました。党政調会長として法案内容の詰めに中心になって携わりました。
維新の党は今年9月の結党当初、すでに「消費税増税に関する見解」として同様の見解をまとめており、「12月上旬発表の7-9月期のGDPの数値を見て決める」とする安倍政権の方針をめぐり議論百出の中、いち早く「再増税に待った」をかけた形です。
結果として、その後、安倍総理も増税の先送りに傾き、それが解散につながりました。国会での議論を私達がリードした形となりました。

■検証・アベノミクス
安倍政権が発足して2年。アベノミクスは今どうなっているのでしょうか。景気の先行指標とされる株価は上がっていますが、肌で感じる街の景況感は冷え冷えとしています。どうしてそのようなギャップが生じているのでしょうか。

●「第一の矢」は確かに飛びました。黒田日銀総裁による「異次元緩和」でインフレ期待が高まり、株価は上昇、行き過ぎた円高は是正されました。ここからが誤算でした。円安になれば製造業の輸出が増えて実体経済も上向きになるというシナリオでしたが、期待に反して輸出は増えず、むしろ円安による輸入物価の上昇で今年度上期は4.4兆円もの巨額の貿易赤字となってしまいました。
●「第二の矢」の「機動的な財政出動」についてはどうでしょうか。安倍政権になって公共事業費を大幅に積み増し、補正予算を入れると前政権時代の倍の10兆円規模の公共事業をばらまいています。確かに経済の下支え効果はあったかもしれませんが、ところが今や大量発注で資材も職人も足りなくなり、建設コストは上昇、入札不調が相次ぎ、計上した予算を使い切れなくなっています。
●「第三の矢」の「規制改革と成長戦略」はどうでしょうか。言葉だけが躍り、まるで実行がともなっていません。「農業」「医療」「エネルギー」といった規制分野における企業の新規参入を促し、競争を通じて新しい成長産業を生み出していくのが「第三の矢」だったはずで、国内外の投資家も期待していました。ところが遅々として進まず、まったく成果をあげていません。
このように検証してみると、鳴り物入りで始まったアベノミクス「三本の矢」が、どれひとつとして所定の効果をあげていないのが分かります。

■消費税8%後、景気は不調に
こうした中で今年4月に行なわれたのが消費税8%への増税です。当初、麻生財務相も甘利経済再生相も「増税の影響はない」と口を揃えて言っていましたが、4-6月期のGDPは震災直後に匹敵する予想を上回る大幅な落ち込み、サラリーマン世帯の実質収入は12ヵ月連続の低下、それにともない9月の消費支出も6ヵ月連続の減少となっています。
増税でモノの値段は上がり、円安により輸入物価も上昇。一方で賃金上昇は追いつかず、物価上昇分を差し引いた実質賃金は減少しています【図1】。

図1:物価は上がる、実質収入は下がる 要するに、可処分所得は減り、勤労者世帯の実入りは悪くなっているのです。これでGDPの6割を占める個人消費が増える訳がありません。
企業の生産活動についても、いわゆる在庫循環図【図2】を見ると、その動きが一目瞭然です。

図2:出荷は減る、在庫は増える(在庫循環図、対前年同月比)出荷が増えて在庫が減る左上が景気上昇、在庫が積み上がり出荷が減退する右下が景気後退を示します。2012年12月の安倍政権発足と同時に景気上昇を示しはじめましたが、増税実施後の2014年5月以降は急速に右下にトレンドが移動しています。そして今や3年前に逆戻りです。
消費税8%への増税が、政府や多くのアナリストの予測を裏切り、アベノミクスにどれだけ大きな冷や水を浴びせたかが、この2つのグラフで分かると思います。

■忘れられた「年金財政の危機」
株価は上がり、実質賃金は下がる。ついでに言えばデフレ時に支給額を維持した特例水準の解消のため、高齢者への年金支給額も減っています。
株価上昇の恩恵を受けるのは一部の大企業と富裕層だけ。こうなると「誰のためのアベノミクスなのか?」という疑問さえわいてきます。
一方、安倍政権がいっこうに語ろうとしないのが、迫りつつある「社会保障制度の危機」です。あまり注目されていませんが、今年6月には5年に一度の「年金制度の財政検証」の結果が公表されています。アベノミクスの効果を見込むか否かでケースA~Hまで計8通りの異なる経済前提を置いていますが、最も「悲観的」なケースHでは40年後の2055年には128兆円ある年金積立金は枯渇、所得代替率は30%台に低下するという惨憺たる内容になっています。
ところがこれは「悲観的」な経済前提でも何でもなく、2013~2022年度のGDPの平均成長率を1.3%としており、これでも2000年以降の実績値(0.7%程度)を上回る想定なのです。要するに、「今のままの経済状況で推移するなら、年金制度はいずれ破たんする」という事実を明らかにしたのが今回の財政検証なのです。
とりわけ深刻なのは国民年金(基礎年金)の支給額の低下です。今の経済状況を前提とすると、のきなみ半分の3万円台まで大幅に低下します。自営業や非正規雇用の皆さんは老後に受け取るのは国民年金だけという方も多いでしょうから、この水準ではとても老後の生活の保障になりません。
アベノミクスの効果を前提に「百年安心」を唱えているだけで、こうした年金制度の深刻な危機に目を向けないのでは、国民の不安に応えているとは言えません。高齢者に一律の基礎年金の額を支給するのではなく、所得や資産の状況に応じて支給額を増減し、老後の生活の安心を保障するセーフティネットとして機能させる改革が必要になってくると思います。
中長期的に見ると、世代間の仕送りのような現行の年金制度の仕組みそのものを変えなければならないと思います。自分が納めた保険料が、将来、自分に返ってくる「積立方式」の年金制度への移行を検討すべきです。

■「同一労働同一賃金」で世界標準の雇用労働制度へ
今や正規は3294万人と46万人減る一方で、パート、アルバイト、派遣、契約社員といった非正規は93万人増の1906万人になっています。女性では正規が1027万人、非正規が1296万人と正規・非正規が逆転しています。
ところが待遇面を見ると、派遣で言えば同じ職場で3年しか働けない不安定雇用なのに多くは正社員より低い待遇で、雇用の安定した正社員がより高い待遇を受けています。これが「格差社会」のひとつの要因になっています。にもかかわらず今回の労働者派遣法改正案では派遣と正社員との「均等待遇」の条文は「配慮」規定にとどまっています。
EUでは派遣も直接雇用と同等の労働条件を保障する「均等待遇」が確立しています。そもそも「正規/非正規」で労働者を区別する制度自体が世界的に見れば一般的でなく、「日本の常識は世界の非常識」とも言えるのではないでしょうか。正規と非正規の垣根を取り払い、すべての労働者が能力と働きぶりに応じて公平公正な待遇を受けられるよう、私達は「同一労働同一賃金推進法案」を他の野党とともに国会に提出しました。
一方、正社員だけでなく多様な働き方を選択したいとの働く側のニーズもあります。厚労省のアンケートを見ると、派遣で働き続けたいという人が43%、正社員になりたいという人が43%、ちょうど半々です。なぜ不安定で待遇も低い派遣で働き続けたいと思うのか。それだけ正社員の働き方に負担が大きく、仕事と家庭のワークライフバランスを犠牲にするものと考えられているからです。
「正規/非正規」の二分法による待遇の不公平と、正社員への過重な負担という2つの問題を解決するのが雇用労働制度の改革の方向性でなければなりません。北欧のデンマークは、離職も容易でありながら、手厚い失業給付と職業訓練で転職も容易という柔軟な労働市場を作り出し、EUで最も失業率の低い国のひとつになっています。日本でも労働市場の流動化は必要ですが、世界標準の「同一労働同一賃金」の保障と転職までの手厚いセーフティネットの提供が前提条件です。労働保険特別会計に積み上がっている約6兆円もの巨額の積立金はこれらの施策の充実のために活用できる財源になると思います。

■おわりに
セーフティネットは穴だらけのまま、アベノミクスで大企業の業績だけを上げ、年金はじめ社会保障制度や雇用労働制度の改革はつまみ食いでは、大多数の国民は置き去りにされてしまいます。政治は誰のためにあるのか―その答えを皆さんに考えて頂くのがこれからの選択の基準になるのではないかと思います。
批判だけでは何も成し遂げられません。「消費税増税凍結法案」「同一労働同一賃金推進法案」のように、いつも必ず対案を示し、政策論争を挑み、国民に訴えかける姿勢が必要です。しだいに見えてきた「アベノミクス後の日本」に向けて、今後もその姿勢で政治家として歩み続けたいと思っています。