別所さんは何もないところから映画祭を立ち上げましたが、自分が実現したいことを他人に理解してもらう上で大切なことは何でしょうか?
別所 やりたいという自分の情熱をぶつけるだけではなく、受け手としての相手にも、その意味を共有できるレベルまで高めることだと思います。相手に寄り添うばかりではなく、自分がやりたいことと相手の求めることの間に、共有できる接点をいかにして見つけるかが大切でしょうね。これは産業にもアートにも、俳優の仕事にも共通していると思います。
そのためには色んなことにマインドを開いておくことが大切だと思います。「ブック・スマート」と「ストリート・スマート」という言い方があります。ブック・スマートは書物等から得られる知識的な賢さを意味しますが、それに対してストリート・スマートとは、実社会に接して、地に足をつけた現実の温度を伴った賢さを意味します。経験から学んだ強さと考えてもいいでしょうね。それによって周りを見据える力が養えると思います。
柿沢 ストリート・スマートとは非常に参考になる言葉です。私もいま、毎日街を歩きながら一軒一軒訪ねて、地元のみなさんと話をして回っているのですが、街を歩いて直に人と話をすることで、私に対する温度や社会に対する温度がわかるんです。気持ちがさめているか温まっているか、または怒りの炎に燃えているのかを感じます。そういうものとかみ合わないメッセージをいくら発信してもだめだと思うんです。
不即不離といいますが、自分の思いを伝えながらも、相手がどう感じるかを常に配慮しながら、常に修正をかけていくことが大事なんだと思います。
別所 それはまさにぼくたちのように映画や演劇、そしてアートに関わっている人間が骨身に染みて感じていることです。
自分のやっていることをわかる人だけがわかってくれればいいよというスタンスでやっていても結局だめ。結局、相手の中に認めてもらってキャッチボールしている中で本当の自分が見えてくることがある。きっと受け手の中に答えがあるんじゃないでしょうか。俳優としてもそのように実感しています。
柿沢 とくに政治家は自分の思いこみが激しいので、ややもすると自分の考えを受け入れてくれるかどうかで相手を判断してしまうような部分があります。その点でも、考えるよりも先に、行動しなければならないのでしょうね。